anna's Book Report: WHO COOKED ADAM SMITH’s DINNER? アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?

フェミニストエコノミクス(経済学)について。
あんな 2022.04.27
誰でも

“Behind every great man is a great woman.”「全ての偉大な男性の裏には偉大な女性がいる」

1970年代、第二波フェミニズムが活発だったころに使われていたことわざです。

アダム・スミスといえば、経済学の父。神の見えざる手、レッセフェール、国富論。経済学部出身ではない私でも彼の名前は知っています。

彼は生涯独身で、未婚のまま一生を終えました。さて、偉業を成し遂げたアダム・スミスですが、彼が机に向かう中、誰が彼の食事を用意し、身の回りの世話をしていたのでしょう?答えは彼の母親、マーガレット・ダグラスです。

マーガレット・ダグラス(Conrad Martin Metz)

マーガレット・ダグラス(Conrad Martin Metz)

早くに夫を亡くし、生涯再婚しなかったマーガレット。スミスが仕事で引っ越さなければ行けない際は同行し、彼女は自分の人生をスミスを支えることに捧げました。しかし当のスミスの経済論に彼女のような「女性の仕事」は考慮されていません。国富論を書きながら飲んだであろう紅茶は彼女が入れ、お腹を満たすために食べた温かい食事は彼女が作り、仕事から帰ってきて彼が心地よく眠りについたベッドは彼女がシーツを洗濯し、ベッドメイキングした。けれど、当時もう今もこれらは「仕事」としてカウントされないー「見えざる手の届かないところに、見えない性がある。」(p.27)

女の方が生まれつき、必然的に、家事や子育てに向いているのだから(そしてそれは “仕事”ではない)、外に出ずに家にいるべきだ、と主張する愚かな人は、未だに存在します。しかしそのような主張をする人は、どのようにして女性(人口の半分)が都合よくそのポジションに置かれたか、そしてその「女性的な活動」が “仕事”として今もカウントされていないか、という点について完全に無知です。

「男声優位社会を擁護する人は、たいてい身体的な差異を口にする…だが生物学的な事実と、政治的な主張は本来全く別物だ。」(p.54)

当著で紹介があるように、カナダの統計局の調査によると、女性が主な従事者である「無償労働の価値」を測定してみたところ、GDP全体の30.1%(その労働を有償労働者に委託した場合)から41.1%(無償労働者が有給の労働に費やした場合)を占めることがわかった。(p.87)

このように、当著ではシャドーワークやケアワーク(看護師など)がこれまで男性社会の中でどう「なきもの」にされてきたか、または「愛」などという言葉を使って無償化や低賃金を余儀なくされてきたかが書かれている。この本を読んだあとに、「男女で収入に違いがあるのは当たり前だ」という類の主張がいかに馬鹿げているかがわかります。そもそも女性が多く従事する仕事はあえて低賃金に設定しているのですから。
「主流派経済学は伝統的に女性の役割とされる仕事を過小評価してきました。経済活動の指標としてもっとも広く使われる数字はGDPですが、GDPは家事など市場の外でおこなわれる労働を測定しません。GDPに含まれるのは市場での売買や、軍事費、金融などです。ところで、何をGDPに含めて何を含めないかは、政治的な問題です。あらかじめ測るべき実態があってそれを測っているのではなく、政治の都合に合わせて、何を測るべきか(何に価値があるとし、何を無価値とするか)の線引きが決められてきたのです。女性の家庭内労働は経済の世界から排除され、価値のないものとされてきました。」(訳者あとがき)

全ては「彼ら」の思惑通り。

1965年、人類史上初めて子宮内の胎児の撮影が成功しました。

13章では私も自分のバイアスに気付かされました。この写真、「胎児一人」の写真であると多くが認識しましたが、実は母親とのツーショットなのです。胎児は常に母親と繋がっていて、肉と肉が触れ合う様は、どこからが母親でどこまでが胎児か、その二人を識別するのも難しい。けれどこの写真を見る多くの人は「胎児」にしか目が向かない。そしてそのような出来上がりも、実は写真家のレナート・ニルソンの計算済みだったのです。

というのも、この写真に映る胎児、実は既に死んでいる胎児です。「そこには、一番大事だったはずの、生命はない。」(p.202)

最も「女性的」なものであるはずの認識でさえ、女性は「いないこと」にされてしまう。その恐ろしさが受け取れる例であると感じました。

「労働者階級の男性たちがフルタイムで働いて独立するためには、女性に家の世話を全てやってもらう必要があった。でも歴史はその部分については語らない。ちょうどアダム・スミスが母親について語らないのと同じように。」(p.244)

***

当著は、これまで散々「理論的だ」と言われてきた「女性を排除するための理由」を否定する解が込められており、私たちが生活するために上に乗らなければならない経済社会そのものが男性優位に作られているのだと改めて知ることができる本です。

社会運動としてのフェミニズムではなく、経済学の観点から書かれているという点もユニークですし、大変勉強になりました。できるだけ多くの方に手に取って頂きたい本です。

「誰のおかげで飯が食えると思ってるんだ!」というセリフ、いかにそれを吐くその本人が愚鈍であるかが改めてわかります。「いや、誰がその飯作ったと思ってるんだ」という問いを考えたことがない全ての人に。

無料で「あんなのニュースレター」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

読者限定
【登録者さま限定】久しぶりにアメリカに帰りました。
読者限定
Blue Skyのアカウントができました!
読者限定
【読者限定配信】映画「ワタシタチハニンゲンダ!」上映会に参加して。
読者限定
「いじわるな日本人」に、善意を前に繋ぐ提案。
読者限定
【登録者限定ニュースレター】5月になりましたね。
読者限定
【登録者限定NL】Happy International Women'...
誰でも
Cine-File Vol. 8 She Said
読者限定
ツイッターとは別の方法で繋がりたい。