Cine-File Vol.6 - Blue Bayou ブルー・バイユー
今回のCine-Fileでは、アメリカ・ルイジアナ州に住む、韓国から養子としてアメリカに来たアジアン・アメリカンの男性を主人公として描かれた『ブルー・バイユー』を紹介させてください。
1950年代以降、朝鮮戦争が勃発し、朝鮮半島は情勢的にも、金銭的にも不安定な日々が続きました。そんな中、韓国の法律が国際養子縁組に対して易しかったこともあり、多くの韓国生まれの赤ちゃんが海外に養子として移民していきました。中でもアメリカはポピュラーな終着地で、2013年現在およそ12.5万人以上の韓国の子どもたちがアメリカに養子として渡りました(1)。ピークは過ぎたものの、今でも韓国から海外に養子として渡る子どもたちは少なくありません。
それから何十年か経った今、当時赤ちゃんだった当事者たちが大人になり、彼らを悩ます様々な問題が少しずつ明るみで始めました。最も多いケースとしては、やはりアイデンティティクライシスです。養子として迎え入れられた先の多くが白人家庭だった当事者たちは、家族も白人、コミュニティも白人の中、自分はアジア人として扱われるにもかかわらず、自分の母国の文化を全く知らずに育ったことから、クライシスを起こします。韓国に行ってみても言語や立ち回りがわからず、結局外国人扱いを受け、自分がどこに属しているのか混乱が生じます。
実際、アメリカの統計を見ても、韓国系養子の自殺率はアメリカの平均の約4倍です。(アメリカ平均:10万人中13.7人、KA:10万人中54人)
ルイジアナ州でタトゥーアーティストとして生計を立てている映画の主人公、アントニオ・ルブラン(ジャスティン・チョン)も、同じように自分のアイデンティティと葛藤しています。ルイジアナ州独特のフランス系の名字を持つアントニオですが、名前を言う度に相手から「どうしてその名字なの?」と聞かれます。30年以上アメリカに住み、家庭を持ち、英語しか喋れない彼ですが、いつまでもアメリカ社会から「アメリカ人」として受け入れられない」というアジアン・アメリカンの葛藤がここでも描かれています。
アントニオと家族。妻には連れ子がいますが、アントニオは実の子として受け入れ愛します。このシーンでは、「パパと同じ髪色がいい!」と娘が髪を黒染めにしています。
そんな中、彼はひょんなことからベトナム系移民で末期癌を患うパーカー(リン・ダン・ファン)と出会い、彼女の家族と触れ合います。人生で初めて「自分と似た顔」の友人ができたアントニオは、静かな友情と繋がりに、内に秘めた思いや、遠い昔の記憶と向き合い始めます。
パーカーとアントニオ。
「もう死ぬんだから、何したっていいじゃない」と彼にタトゥーを入れたいと申し出る彼女。「何にする?」と聞くと彼女は「フルール・ド・リスがいい」と即答します。フルール・ド・リスはフランス領土を意味するルイジアナ州を代表するシンボルです。
フルール・ド・リスのタトゥー。
「どうしてそんなありきたりなタトゥーを?」とアントニオが問うと、「母が好きだったの」と静かに答えるパーカー。ベトナムからアメリカに渡ったパーカーの家族。ベトナムもまた、フランス領土でした。「フルール・ド・リスって、何の花か知ってる?」と彼女は彼に話しかけます。アントニオが首を振ると、「睡蓮だよ」と彼女は続けます。「睡蓮って、地上からはまるで根を張っていないように見えるでしょう?でも水面下では太い根を張ってるんだ。何とも繋がっていないように見えて、実はちゃんと、根を張っている」と彼女は彼に話しかけます。
一見ありきたりな「フルール・ド・リス」のタトゥーが、パーカーにとって何重もの意味があるというこのシーン、アジアンアメリカンの交差するアイデンティティや、文化との繋がりをとても美しく表すシーンだと思いました。
そして今回、私は『ブルー・バイユー』を通じて新たな問題を知ることになりました。
当時相当な数の養子が韓国からアメリカに渡った中、多くの場合エージェンシーを通じて養子縁組が行われるのですが、手続きに不備があり、不法滞在状態になっている当事者たちが少なくないという事実です。
そして主人公のアントニオも、同じように手続きに不備があり、 30代半ばで初めて、自分が不法滞在者であることを知ります。その事実が判明後、「強制送還」という言葉が家族を襲います。
養子としてアメリカに渡るも、新しい家族から虐待を受け、養護施設を転々としていたアントニオ。人生で初めて、家族を得て、これから赤ちゃんも生まれる。それなのに、法は彼に優しくなく、刻一刻とその時が近づいて来ます。
彼の運命はどうなるのか。「僕は絶対に君を捨てないよ」と継娘とした約束を守り続けることはできるのかー
アントニオと娘。
アジア系としてアメリカで育った私にとっては、自分と重なる部分も多く、涙無くして本作を見ることはできませんでした。さらに、わざわざ海外から養子縁組をしたにもかかわらず、当時ずさんな手続きが行われていたこと、強制送還を余儀なくされた韓国系の方々が少なくなく、今現在もその問題と戦っている当事者がいることに衝撃を受けました。
もしご興味がある方がいらっしゃったら、是非観てみてください。
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春が少しずつ過ぎ、初夏が顔を出し始めましたね。
季節の変わり目ですので、どうぞ皆様ご自愛ください☺️
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