Cine-File Vol.5 - チェチェンへようこそーゲイの粛清ー
こんにちは、あんなです。
今回のCine-Fileは『チェチェンへようこそーゲイの粛清ー』です。
ロシア連邦に属するチェチェン共和国で起きている同性愛者の誘拐・拷問をテーマとしてドキュメンタリーです。そこにあったのは今もなお警察や社会のみならず、家族からも見放される同性愛者たちの姿でした。
チェチェン共和国って?
お恥ずかしながら、私はこの映画をみるまでチェチェン共和国の存在を知りませんでした。そこで、皆様と一緒にチェチェンについてお勉強したいと思います。
チェチェン共和国はロシア連邦構成主体の一つで、北カフカスの山々に囲まれています。グロズヌイを首都とし、約140万人の人口があります。イスラム教を主な宗教としています。チェチェンの人たちが愛して止まないのは「ラムソン」という野草で(英語ではwild garlic)ニンニクと近しい匂いがする香草だそうです。
ラムソン
チェチェンでの「ゲイ狩り」
映画作成時、チェチェンの首長はプーチンとも近しい仲である、ラムザン・カディロフ(ウクライナ有事で死亡)。彼の政権の元、チェチェンでは同性愛者が誘拐された後に拷問されています。一人の同性愛者を捕まえ、10人同性愛者の名前をあげるまで解放されない、という方法を取りながらどんどんと国内のLGBTQ当事者を抹殺していくジェノサイドが行われている。
なかなか公になる機会がなかったこの悲惨の事態だが、少しずつ実態が明るみになってきた。欧米のインタビューにカディロフは、「ゲイ狩りは行われていない。チェチェンにゲイはいない。」と答えている。
そんな仲、彼らの救出に奮闘するNPOを追うのが今回のドキュメンタリーだ。公に自分たちの存在を宣伝できないため、口コミで広がるNPOの存在。月に25人ほど救出している。
彼らの方法はとにかく当事者をチェチェンからセーフハウスに移動させ、そこからビザを取得し海外に出国させること。
仕事や家族、今までの生活をすべて捨てて、当事者は知りもしない国に飛び立つービザが取れる国ならどこでも。セクシャルマイノリティとしての自分が家族に受け入れられず、最後の挨拶をすることができない人もいる。「僕は家族と話すことはない。これから、一生母国語を喋ることがないかもしれない」と出国前の男性は悲しそうに笑った。
数人のケースを追うこのドキュメンタリーだが、私が特に気になったのはレズビアンのケース。そもそも女性の権利が認められていないチェチェンにおいて、女性が一人で外出したり自立することは難しい。そのため、ゲイの当事者よりもレズビアンの当事者の方が救出が難しいのだとNPOの代表は言う。多くの場合、家庭内の女性がレズビアンだとわかると、家庭内暴力で彼女の声は黙らされてしまう。無理やり男性と結婚させられて済むならまだ良い方。同性愛者だとカミングアウトすることで家族の誇りに泥を塗られると考えるチェチェン人も少なくなく、彼らは当事者を殺すことを正当化している。もちろん国はそれを黙認するし、むしろそうするように煽る。
この実態はまさにインターセクショナルだな、と思いました。
同性愛者は全て殺しの対象ーしかし表に出にくいのはレズビアンの当事者たち。
そして男尊女卑社会だからこそ、女性が一人になる時間が少なく、NPOの救出が難しい。
結果間に合わず、最悪の場合殺されてしまう。
今起きているロシア・ウクライナ有事を考える上で、カディロフ・プーチン政権のLGBTQ当事者の扱いも無視できません。恐ろしいのは、ゲイ狩りをよしとしているグループが今、武器を持っているということです。混乱の最中、彼らに何が起こっているかは、知る由もありません。
ロシア連邦の一部であるチェチェン共和国で何が起きているか、ぜひこの機会に『チェチェンへようこそ』をみてみてください。
NPOで働くメンバーと、拷問をカミングアウトした Maxim Lapunov (右)
すでに登録済みの方は こちら