anna’s Book Report: 『僕の狂ったフェミ彼女』ミン・ジヒョン著

2019年に書かれた韓国のフェミニズム小説が日本語に訳されました!(ネタバレ無し)
あんな 2022.04.04
誰でも

こんにちは、あんなです。

今回のBook Reportはミン・ジヒョンさん著『僕の狂ったフェミ彼女』についてお書きしたいと思います。

本作はフェミニズムに何ら関心のない男性主人公スンジュンが、最後に本当の恋をした元カノに再開したところ、なんと彼女がフェミニストになっていた!というお話。フェミニスト女性と“一般的”な男性が付き合うことによって生じる様々な問題やすれ違いを、スンジュン(男性)の目線で描くことによって、少しでもフェミニズムの知識がある方からしたら終始もどかしくことが進んでいくように書かれています。

日本語版の帯びたいに「愛も権利も譲れない、あなたのための物語」と書かれているように、この小説はフェミニストの恋愛のハードルを可視化させています。そして登場する女性フェミニストのキャラクターは名前が無く、『82年生まれ、キム・ジヨン』でジヨンの外見に対する言及が全くないように、本作でも「彼女」に自分を投影して読むことを可能としています。自分だったら、恋人にこう言われてどう思うか、と考えながら物語を読み進めることをお勧めします。

読んでみて:

普段はエッセー本や新書などを読むことが多いので、小説という媒体はリフレッシングでした。ダイアローグベースで進むので、読むのも易しいし、時間も全く掛からず、おそらく1日時間がある日ならその日で全て読める本です。

そもそもフェミニストの女性がスンジュンのような男性とお付き合いをする決断をするのかどうか、という根本には疑問を持ちますが、この本のテーマである「フェミニストの恋愛」を書くためには少々強引な設定が必要だったんだろうな、と想像します。そのまま二人の恋愛が成就するのか、はたまたお別れするのか、気になる方は是非本著を読んでみてくださいね。

私が最も胸を打たれたのはミン・ジヒョンさんの「作者あとがき」の部分でした。

ミンさんはフェミニストが現代の韓国(or日本)で恋愛するのはまるでウォーキングデッドだ、と書いています。「一歩外に出ればゾンビに噛まれるかもしれない」 ー 本作でも主人公の「彼女」は職場でセクハラに遭っています。「人間の顔をしているけど蓋を開けたらゾンビかもしれない」ー 恋人が親切な人かと思ったらいきなりひどいことをされたという経験は誰しもあるかと思います。実際、強姦被害のうち3割は「知人」によるもので、更に、日本では恋人間・夫婦間の強姦事件の立証は非常に困難であるため起訴にまで至らず、そもそもそのような間柄であるため警察や弁護士への相談を躊躇する女性が少なくありません。つまり、「信頼している相手」からの強姦やセクハラこそ、暗数化してしまいがちなのです。

そんな中、本作の主人公は「非婚主義」を主張しているのですが、ミンさんがこれを「本当の選択と言えるのか?」と疑問を投げかけます。本作に登場するスンジュンは、友人からの人気は高く、仕事も安定しており、フェミニスト彼女の「わがまま」にも付き合う"良い彼氏"です。しかしそんな彼も、ページをめくる度に意識的にも無意識的にも彼女の人格を尊重できなかったり、人権を尊重できていない様子が伺えます。もちろん、悪意があるわけではありませんが(作中彼女も「あなたがこうなってしまったのはあなただけのせいではない」と彼に語りかけます)、しかしそれを我慢しなければ恋愛ができないのだとしたら、そしてその結果恋愛や結婚をしないと"選択"したのだとしたら、それは真に"選択"と言えるのでしょうか。ミンさんは、それはゾンビ社会で生き残るための生存戦略でしかないのでは、と書きます。

恋愛をしたいと思う人はいるでしょう。しかしそれと引き換えに、自分の人権が踏まれるのを我慢しないといけない世の中で、結果的に恋愛をしない道に進むのは、積極的選択ではありません。

フェミニズムの中には様々な「選択」があります。主人公のように非婚主義をとったり、結婚をしても子どもは持たない選択をしたり、はたまたその結婚のあり方も法律婚ではなく事実婚を選んだり。そして私生活でも、髪型・服装・化粧などをなるべくフェミニンではないものをチョイスしたり、喋り方を「女言葉」から遠ざけたり。ミンさんの後書きを読んで、これらの「選択」が多くの女性にとっては生存戦略に過ぎず、何かしらの足かせがそうさせてしまっている部分は否めないと感じました。

けれども悲しいかな、ゾンビたちは自分たちを人間だと思っています。まさか、私たちの命を危うくしているなんて、思ってもみません。

そのインバランスを可視化させるのが本作でした。

***

『僕の狂ったフェミ彼女』はなんと映画化・ドラマ化も決まっています。映像として本作を拝見することができるのを楽しみにしています。

ぜひみなさまもお手に取ってみてくださいね。

インスタでもどうぞ!⬇︎

無料で「あんなのニュースレター」をメールでお届けします。コンテンツを見逃さず、読者限定記事も受け取れます。

すでに登録済みの方は こちら

読者限定
【登録者さま限定】久しぶりにアメリカに帰りました。
読者限定
Blue Skyのアカウントができました!
読者限定
【読者限定配信】映画「ワタシタチハニンゲンダ!」上映会に参加して。
読者限定
「いじわるな日本人」に、善意を前に繋ぐ提案。
読者限定
【登録者限定ニュースレター】5月になりましたね。
読者限定
【登録者限定NL】Happy International Women'...
誰でも
Cine-File Vol. 8 She Said
読者限定
ツイッターとは別の方法で繋がりたい。