anna's Book Report: Crying in H Mart - Michelle Zauner・Hマートで泣きながら
こんにちは、あんなです。
2021年、本好きの友人のSNSは全て"Crying in H Mart"で埋め尽くされていました。
ついに先日友達が働く本屋さんで「これで最後の一冊だよ!」と背中を押されて、私もCrying in H Martを手に入れました。
それから3日間、ページをめくりめくり読走。
今回のニュースレターでは本作の感想を綴りたいと思います。
あらすじ:
Crying in H MartはJapanese Breakfastの名で知られる歌手、ミシェル・ザウナーさん本人のエッセー本。
アメリカ人で白人の父親と、韓国人の母親の間に生まれた彼女。韓国はソウルで生を受けた彼女ですが、すぐにアメリカの田舎町に引っ越し、自然に囲まれてのびのびと育ちました。
Japanese Breakfast - Michelle Zauner
本作は20代半ばの彼女が主役。大学を卒業し、歌手になる夢を追いながらバイトを掛け持ちしている彼女の元に思いもやらない知らせが届きます。彼女のお母さんに悪性の腫瘍が見つかったとの報告です。
彼女は人生の全てをストップし、母親の看病のため10年ぶりに親と暮らし始めます。
ミックスルーツを持つ彼女。
数年起きに韓国に帰ってはいたものの、韓国語は拙く、消えゆく母の命とともに、「韓国人としての自分」も薄らえていくのではないかとクライシスを起こします。
そんな中彼女のアイデンティティを強く支えたのが「食事」でした。
幼い頃、お母さんが彼女のために作っていた食事を、今度は彼女がお母さんのために作る。
しかしそんな努力も虚しく、病床の母は食欲がなく、やっと口にできた食事もすぐに戻してしまいます。
それでもめげずに彼女は韓国料理を作り続けます。
レシピは検索したり、YouTuberを真似したり、韓国人の知人に聞いたり。
不慣れながらも少しずつ韓国料理をマスターしていく彼女。最終的にはキムチも一人で漬けられるようになります。
食品が必要になるたびに、彼女はアメリカの大手韓国スーパーHマートに向かうのです。
母のためにも、自分のためにも。
Crying in H Martを読んでみて
超話題だった当著、手にするまでは主人公がミックスルーツ当事者であることを知りませんでした。
彼女と私では異なる部分が多いですが、それでも似た背景を持つ当事者の一人のナラティブとしてとても興味深かったです。
母親が唯一の韓国への鍵だという感覚は、多くのアメリカ在住のミックスルーツ当事者が抱く感情なのかな、と想像しました。
ミシェルさんとお母さんとの関係性が最もスポットライトを浴びていますが、お父さん、ジョエルさんとの関係についても言及されています。そこには、娘としては最悪の結末が待っていました。
「オンマが死んだらお父さんは再婚すると思う?」と聞くミシェルさんに母親はこう答えます。「すると思う。多分またアジア人と。」
妻の死後1年未満でジョエルさんはミシェルさんが育った、お母さんの思い出が詰まる家を売り、タイに移住します。お母さんと婚姻中も浮気癖が治らなかったジョエルさんですが、その後もアジア人の女性何人もと恋愛関係になり、最終的に娘のミシェルさんよりも7歳年下のインドネシア人女性と再婚します。オンマの予言は当たったのです。
父親はもしかしてアジア人フェチなんじゃないか。「オンマ」じゃなくても、アジア人だったら誰でもよかったんじゃないか。今もなお、アジア人であれば「オンマ」を置き換えられるんじゃないか。
そんな恐怖をミシェルさんを襲ったそうです。
彼女は静かにジョエルさんをブロックした後、彼を「許す」ことを決めました。
→ Michelle Zauner on Choosing to Forgive Her Estranged Father, Harper's Bazaar
結局母親の死後、ミシェルさんは自分が悲観していた未来とは逆の道に歩んでいます。
母の死によって抱いた感情を元に作ったアルバムはヒットし、彼女は念願かなって歌手として生活できるようになります。なんとワールドツアーをこなし、母国韓国はソウルでもライブを成功させます。
さらに、この本の出版に至ったエッセーなどの彼女のペンマンシップが評価され、「アジアンアメリカン」としての活動も多くなりました。
今でも韓国料理を好んで作り、作りすぎたキムチは友人に分けたりしています。
母親と叔母を亡くした後、韓国に残った親族とも不器用ながらにつながりを保ち続けています。
今もなお、オンマは彼女の生活の隅々で「生きて」います。
けれども父親とは連絡は一切とっておらず、今では知らない人の夫に。
本当に「死んだ」のはどちらなのかと考えてしまいます。
私は長らく「アメリカ人」としてのアイデンティティと葛藤していました。
私の継父は白人で、私は主に白人が多い地域で育ちました。
彼らの「アメリカ人」としての経験やアイデンティティと私のそれは全く異なります。
故に、私は「アメリカ人」としてのアイデンティティが欠如しているのだとずっと考えていました。
小中高とアメリカで過ごしたので、自分という人間を形成するのに重要な月日はアメリカで過ごしたものの、あくまでもそれは「お客さん」としてであって、「アメリカ人」としての経験ではなかったのではないかと思うようになっていました。
けれども、コロナによるアジア人差別を皮切りに、多くのアジアン・アメリカンの書物が市場に出るようになりました。そこで私はやっと気づいたのですー私が今まで経験した「アメリカ」は「アジアン・アメリカン」としてだったのだな、と。
幼い頃に笑われた日本のお弁当、中国や韓国とごちゃ混ぜにされる食事や言語、初めましてで必ず投げかけられるアジアの言語たち(你好やサムライなど)。
多くのアジアン・アメリカンと共有できる経験です。
さらに、このCrying in H Martが私にとって意義深いのが、ミックスルーツ当事者のアジア人としてのアイデンティティを探る作品である、という点です。
アジア人に限らず、ミックスルーツ当事者は「どちらの文化からも拒絶される」という経験があります。そんな中、不器用ながらもアジア人としてのアイデンティティを探るミシェルさんの生の声は、私もアジアン・アメリカンとしてアイデンティファイして良いのだよ、と優しく声をかけられているような気持ちになりました。
ミックスルーツ当事者であると、日本では「ハーフ」差別に遭います。
さらに、片方の親御さんがレイシャルマイノリティであればそれぞれのレイシズムを経験していることでしょう。
けれど多くの日本在住の方が気づかないのは、私たちが外国に行った場合、「ハーフ」差別をしているその人たちも経験する「アジア人差別」に遭うのだという点です。
「アメリカに行ったらアメリカ人として受け入れられるんでしょう」と思っている方がいらっしゃるようですが、現実は、悲しいかな、そうではないのです。
Crying in H Martは現在日本語には訳されていませんが、韓国語訳は販売中です。
英語または韓国語ができる方は是非手に取ってみてください。
近い将来日本語にも訳されるといいな。
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